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2009年10月28日 (水)

少年事件の実名報道は許されないのか

 清々しい朝です。そんな朝のひとときを利用して、松井茂記先生の『少年事件の実名報道は許されないのか:少年法と表現の自由』(日本評論社、2000年)を読みました。

 少年法61条は「家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない」と規定しています。

 本書は、この条文の「推知報道禁止」を絶対的禁止の意味で理解してはならないとの立場から書かれています。松井先生が書かれていることもあり、この見解が憲法学では有力であるといえると思います。

 また少年法61条は少年の更生を目的とした「刑事政策的なもの」で、実名報道されない「権利」を保障したものではない、という点も、憲法学的には妥当なものだと思います。

 さらにこの条文には旧少年法にはあった罰則規定がありません。この点をとらえて、本書は、「立法者は、罰則規定をはずすことによって、これをマス・メディアの自主規制に委ねた」と理解しています。仮に絶対的禁止を求めるなら立法者は罰則規定を残すはずですから、それをあえて削除したところに、立法者の絶対的禁止を否定する意図を読み取ることも可能だと思います。

 とはいっても、そのような少年事件でも、実名報道、推知報道が許されるわけではありません。著者は、大阪府堺市で起きた通り魔殺人事件について、「新潮45」が容疑者とされた当時19歳の少年の氏名と写真を公表した事件に関する大阪高裁判決に依拠して「少年の実名報道が正当化されるのか、公衆が正当な関心を抱くであろう重大な事件に限られる」(198頁)とすることも忘れていません。さすがは松井先生、穏当で妥当な思考だと思います。

 ところで少年事件の、あるいは広く刑事事件における容疑者の氏名等公表について、それは「いわれるような民主政原理との深い結びつきのような高い価値は見出しがたい」、従って、実名報道は不要であるとの意見があります。この点について本書はつぎのように言います。少し長くなりますが引用します。

 「たしかに、個々の事件の容疑者の氏名に、民主政原理とのそれほどの結びつきはないのではないかと想われたとしても仕方ない。しかし、公共の利害に関わるような事件が起きたとき、それを知り、それに対してどう対処すべきかを論じることも、公共的な討論に含まれる。事件の解決にあたって、警察の行動は適切であったか、裁判所の措置は適切であったのか、そして少年事件の取扱い全体が適切かどうか、これらの事項も公共的な討論事項である。そして、これらの討論を真に意味あるものとするためには、十分な事実が報道されなければならない。……少年の氏名そのものに価値があるかどうかではなく、氏名等を明らかにすることなく意味ある討論が可能かどうかを問題にすべきである。……少年に面識のある者に少年を特定することができないような報道しか許されないのであれば、現実に少年事件の報道が不可能である以上、少年の氏名等の報道も認めざるをえないのである」(150-151頁)。

 (ここでも使われ、また一般によく「公共の利害」といわれていることは、英語でいうと public interest です。これ「公衆の関心事」と訳した方が、もとの意味に近いのではないでしょうか。蛇足ながら……)。

 表現の自由、報道の自由、そして「知る権利」に重要な意味を見出し、そのためにときに少年の実名報道が許される場合もあるとする本書を、2000年刊と少し前のものであるのに、なぜいまのタイミングで読もうと思ったのか。

 その理由のひとつは、現在ブリティッシュ・コロンビア大学に勤務しておられる著者と公法学会のときに昼食をご一緒できそのときに本書のことを思い出したことがあるのですが、なによりもいま話題の「○○君・・・」本を入手できたからです。「○○君・・・」の内容というよりも、こうして少年事件の容疑者の実名を掲げて書籍を出版すること、そのことの憲法学的視点からの正当性を考えてみたいと思ったのです。

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