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2010年2月24日 (水)

獄中記

 もう春でしょうか。温暖な日が続いています。

 沖縄では佐藤優『獄中記』(岩波書店、2006年)を読みました。いつか読もうと思って購入したまま本棚に置かれていたものをようやく読むことができました。そうこうしている間に、本書は文庫化され、安価での入手が可能になっています。ハードカバーを購入しておきながら読まずにいて、後に文庫化されてから読むという経験、何度もあります。なんとなく損した気になるのは私だけでしょうか。(「私だけ・・・」といえば、だいたひかるさんは、お元気でしょうか?失礼しました)。

 本書の著者、佐藤優さんの肩書は「起訴休職中外交官」。テルアビブの国際学会に関する背任容疑および国後島のディーゼル発電事業に拘わる偽計業務妨害の疑いで逮捕・起訴されています。本書では、その佐藤さんの東京拘置所での勾留生活が綴られています。

 本書で佐藤さんは、鈴木宗男代議士および佐藤さん他の外務省職員に関する逮捕・起訴を「国策捜査」であるとします。ただ「国策捜査」の必要性を佐藤さんは否定しません。時代が「ある時代」から「つぎの時代」に転換を遂げるために、それは必要とされることもある、といいます(56頁)。この時代の転換を、佐藤さんは往時の国家政策(公平配分型社会を目指していた。鈴木宗男さんもこれに与していた、と本書はいいます)から新自由主義政策(小泉さん的)への転換と捉え、この移行過程で、本件一連の「国策捜査」が必要であった、というのです。「国策捜査」とはどのようなものであり、それがなぜ司法機関によって担われているのか、ということについては、是非、本書をお読みください。佐藤さんの見解によれば「司法の中立性」は擬制に過ぎないことになります(86頁を参照してください)。

 「国策捜査」に関する佐藤さんの見方も興味深いものなのですが、わたしが注目したのは、なんといっても拘置所における佐藤さんの勉強(読書)生活です。佐藤さんは、自らに対する捜査がなぜ行われたのか、それを「国策捜査」と位置づけた上で、その適否を裁判過程のなかでどのように「思考する世論」(この表現は本書で何度も出てきます)に問うていくのかの戦略を得るために、ハーバーマスの『コミュニケーション的行為の理論』や『認識と感心』、ヘーゲルの『精神現象学』などを読み進めます。どうも拘置所というのは勉強・思索によい環境が整っているようです。40歳をこえた段階で511泊512日という勉強期間を得たことは(実際には最初の100日ぐらいは取り調べなと煩わしいこともあったようなので、集中できたのは400日ぐらいのようですが)、今後の人生を大きくステップアップさせる礎になるのではないでしょうか。大学院を出てからいままでそういう時期を持てないでいるわたしにとっては、むしろ羨ましささえ感じます(笑)。

 ところで、本書は拘置所での生活がどのようなものであるのか、についても詳しく記されています。たとえば、未決拘留者が所持できる本の冊数(書籍・雑誌は3冊まで、辞書・学習書などについては許可を得て7冊まで、計10冊)とか、9時・15時のコーヒータイムで生活・勉強のメリハリがつくとか、拘置所内でも季節を感じられる(夏にはアイスクリームが楽しめる)など、興味深い情報が端々に散りばめられています。また、時計がないため時間が分からないとか、鏡はないなどの豆知識まで。

 どうやら囚人は食事に強い関心をもつようで、食べものに関する記述も満載です。東京拘置所の食事を、佐藤さんは高く評価しています。正月には豪華なお節料理もふるまわれるとのこと。またまた羨ましい・・・。

 さらに朝7時のNHKラジオニュースが検閲後、12時から放送されている(12時のものは検閲後、19時に流される)とか、差しいれられるハーバーマスやヘーゲルの本も、検閲されるという「検閲ネタ」も興味深いものでした。広辞苑も検閲を受けるようで、佐藤さんは「二週間ぐらいかかる」と予想しています(46頁)。検閲官も大変ですね・・・。

 ということで、本文502頁にわたる本書の内容は、大変刺激的なものでした。佐藤さんはこの本で国家、国益の維持・獲得にとって、いかに「諜報」(インテリジェンス)が重要であるかということも説いています。本書は、その意味で、外交官を目指す人におすすめの一冊です。

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