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2014年4月13日 (日)

ヘイト・スピーチとは何か

 あめ、ということで、読書。

 師岡康子著『ヘイト・スピーチとは何か』(岩波新書、2013年)を読みました。

 この本によると、「ヘイト・スピーチ」とは、人種、民族、性などのマイノリティに対する差別に基づく攻撃的言論とのこと。少数者であっても、支配的立場にある者への言論は、ここから外れます。被支配的、抑圧的立場に置かれている者への言論ということでしょう。また、このようなマイノリティ差別に基づく有形力の行使のことを、とくに「ヘイト・クライム」というそうです。

 こうした言論行為を類型として法的に規制する法制度をわが国はもっていません。それは、人種差別撤廃条約に加盟している国としては、例外的とのことです。こうした国際条約上の義務を果たして、ヘイト・スピーチ、ヘイト・クライムには、民刑事制裁、その他の制裁を実施すべきである、というのが本書の基本的主張です。

 ヘイト・スピーチをめぐる問題としては、京都朝鮮学園に対するいわゆる「在特会」の示威活動等に対して損害賠償等が認められた、昨年平成25年10月7日の京都地裁判決があります。本件では、京都朝鮮学園という学校法人に対する損害賠償等が認められました(この事案については、刑事事件でも在特会は起訴されていて、威力業務妨害罪および侮辱罪の判決が確定しています)。ただ、特定の個人に対するものではなく、当該言論が「一定の集団に属する者の全体に対する人種差別発言が行われた場合に、個人に具体的な損害が生じていないにもかかわらず、人種差別行為がされたというだけで、裁判所が、当該行為を民法709条の不法行為に該当するものと解釈し、行為者に対し、一定の集団に属する者への賠償金の支払いをめいじるようなことは、不法行為に関する民法の解釈を逸脱しているといわざると得ず、新たな立法なにし行うことはできない」ともしています。

 上の判決の要点は、特定の個人に対する名誉毀損、侮辱、脅迫と不特定の集団に向けられたヘイト・スピーチを区別し、前者が認定されればわが国の現行法制度で民刑事上の制裁が可能であるが、後者については、それを規制する法律のない現状では法的制裁を科すことはできない、という点にあります。ここをうけて、ヘイト・スピーチをカテゴリとして規制すべきでは、との主張が唱えられているのです。

 みなさんは、どう考えますか。わたしとしては、穏当な形態でなされるヘイト・スピーチまで規制すべきだろうか、と逡巡しています。上の師岡さんの本には、出版等の穏当な形態のものでも法規制されている他国の例が紹介されています。

 では、規制可能かというと、規制それ自体は可能なように思います。ヘイト・スピーチを公的な事柄についての真摯な言論ではない(「保護されない言論」)であるとカテゴライズして法的規制下に置く手法は、猥褻表現、名誉毀損、プライヴァシー侵害と同様の規制枠組でしょうから。猥褻表現規制のように社会的法益を想定して、名誉毀損罪のように、違法性阻却事由などを法定する方法で。

 ヘイト・スピーチは、単なる名誉毀損、侮辱的表現であるから問題なのではなく、支配的集団が被支配的地位に置かれているマイノリティに対する偏見を助長するものであるところに問題がある、といわれています。マイノリティの市民としての地位を低下させ、平等の立場で生活することを妨害する言論である、というのです。たしかに、ヘイト・スピーチを容認すべき理由はないようにも思われます。

 でも、国家的規制の下で真の平等社会、偏見のない社会が実現するのでしょうか。それは、なんだか「真空のなかでの議論」のような気がします。平等社会、偏見のない社会は、ときに極端な思想表明をも認める自由な言論が容認されている中で、少しずつ少しずつ時間をかけて「言論の力」で生成されていくものではないでしょうか。たしかに、そんな悠長なことは言ってられない、現に、差別され、偏見の下に置かれている人たちがいるのだから。たしかにそうですが、仮にヘイト・スピーチを法規制しても、当該言論者は処罰されるでしょうが、平等社会、偏見のない社会が実現したわけではない、ような。

 意識したことはありませんが、わが国では、わたしはやはりマジョリティなのでしょうか。ヘイト・スピーチ規制に異議を唱える見解は、その無意識、無自覚ゆえのものなのでしょうか。

 みなさんは、どう思われますか。

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